数珠の選び方~数珠の意味と種類、葬儀前の注意点
数珠は葬儀の必需品といっていいほど、多くの葬儀で必要になるものです。
そんな数珠ですが、実は宗派ごとに形が違い、さまざまな種類があるということをご存知でしょうか。
今回は数珠を持つことの意味とともに、どんな種類の数珠があるかなどについてご紹介します。
数珠を持つことの意味
元々の数珠は念仏を数えるためのもの
数珠の歴史は古く、お釈迦さまが誕生するより前にインドで生まれたといわれています。
最初は木の実をつなぎ合わせたような形で、念仏を何回数えたかをカウントするためのものだったそうです。
数珠をカウンターとして使う方法は、現在も僧侶や熱心に修行を行う人などであれば日常的に行っています。
日本で数珠が一般的になったのは鎌倉時代から
日本で一般の人が数珠を持ちはじめたのは、鎌倉時代からといわれています。時代を経て、数珠が念仏の数を数えるためのものだけでなく、礼拝に使う道具としての役割も持つようになったことが影響していると考えられます。
数珠の玉数は煩悩の数
数珠の玉数は、正式のものだと108個というのが一般的です。「108」は、煩悩の数を表しているといわれています。
「数珠を使って念仏を唱えるごとに1つずつ煩悩が消滅し、功徳を積むことができる」という考えが根本にあるためと考えられます。
数珠にはお守りとしての役割も
「数珠はお守り」とよく言われます。お守りといわれるゆえんの一つには、「数珠にお釈迦様が宿っている」という考え方が影響しているようです。
数珠をよく見ると、大きい玉や小さい玉が混じっていることが多いです。数珠は宗派ごとに正式な形が異なりますが、多くの宗派で108個の玉より大きい玉が2つ、小さい玉が4つあるのが一般的です。
大きな玉はそれぞれ、極楽にいるお釈迦さまと地獄から私たちを救ってくださるお地蔵様が宿っている、といわれています。小さい玉も一つずつが、不動明王、愛染明王、善財童子、善蜜童子を表しています。
数珠によっては、大きい玉が1つだけという場合や、小さい玉が2つ、もしくは入っていないことなどがあります。ですが、基本的にはどの数珠にも大きな玉が一つはあり、お釈迦様が宿っていることになります。
数珠を身近に置いておくことは、お釈迦様が常にそばにいてくださることと同じと考えることができます。
数珠の種類
数珠は正式と略式に分かれる
数珠の種類は、正式念珠と略式念珠、男性用と女性用とに分かれます。念珠とは数珠の別称です。
男性用と女性用との区別は、基本的に見た目に玉が大きく、寸法も大きくつくられているものが男性用、小ぶりの玉で小さめの寸法のものは女性用と考えるといいでしょう。
中にはそれ以上に大きな数珠もありますが、僧侶が儀礼用に持つ数珠であることがほとんどです。
正式念珠
正式念珠は、基本的に108個の玉から成り、宗派ごとに形が異なります。長さがあるため、二重にして使うことが多いです。
原則として信仰する宗派以外の数珠は持ちません。ですが女性の場合は、真言宗の正式念珠であれば、日蓮宗を除く各宗共通の数珠として使用できます。真言宗の正式念珠は「振分」とも呼ばれます。
略式念珠
略式念珠は、一般的によく目にする一重の数珠で、各宗共通の形です。正式念珠に比べて玉数が少ないものの、一つひとつの玉は大きいのが特徴です。片手にかけて使えるので、片手念珠と呼ぶこともあります。
数珠の持ち方
略式は左手にかけることが多い
数珠の持ち方は、正式は宗派によって持ち方が決まっていますが、略式の場合は数珠を左手にかけるのが基本です。右利きの人は「利き手と逆に持つ」と覚えておくといいでしょう。ただし、宗派によっては両手にかける場合もあります。
お焼香をしている間の持ち方は宗派によって異なりますが、基本的には房を下にして、左手にかけたままで行うことが多いです。
数珠を左手に持つ理由|左手は「仏様のいる世界」
左手に数珠を持つ理由は諸説ありますが、ひとつは左手が仏様のいる世界で、右手は私たちのいる世界を表すとされるからのようです。
ほかにも、日本では多くの人が右利きということから、「利き手というのはいいこともすれば悪いこともする=不浄の手」とする考え方もあるようです。
数珠の選び方
数珠は自分の信仰する宗派に合わせる
数珠を初めて購入する場合は、基本的に自分が信仰する宗派に合わせて選びます。
神道やキリスト教を信仰している人や、無宗教の場合は略式の数珠で問題ありません。
女性は結婚した相手の宗派に合わせた数珠を持つ
女性の場合、原則として結婚後に相手の姓を名乗る場合は、相手の宗派に合わせた数珠を持つのが基本です。結婚後は実家の葬儀や法要に参列する場合も、相手方の宗派で用いる数珠を使用します。
結婚前とは宗派が変わることがあるので、各宗共通の真言宗の正式念珠(振分)か、略式念珠を持つほうが無難です。ただし日蓮宗の場合は、独身の間は日蓮宗の正式の数珠を持っておきましょう。
ほかにも、東海や北陸、中国地方など一部地域では、葬儀と法事とで数珠の使い分けをすることや、浄土真宗の場合は正式を持つなどの決まりがある場合もあります。
数珠は葬儀に参列する相手の宗派に合わせなくてよい
同じ仏式葬儀でも宗派が分かれるように、いつも自分と同じ宗派の葬儀に参列するわけではありません。数珠も、自分の宗派が持つ数珠を用意し、参列する相手の宗派に合わせる必要はありません。
数珠の素材や房はお好み
数珠に使われる材質は、水晶やメノウ、翡翠といった天然石をはじめ、菩提樹の実、黒檀、紫檀といった唐木、サンゴ、白檀や沈香などの香木と、多岐にわたります。房の形や色もバラエティに富み、専門店では数十種類そろえているところもあります。
地域によっては、女性はサンゴを持つといった決まりがある場合もありますが、基本的には数珠の素材や房は好みのものを選んでかまいません。
宗派別に見る数珠の選び方
宗派別でみると、日蓮宗は原則として正式の数珠を持つ決まりがあります。ほかにも、浄土宗や浄土真宗も、地域によっては正式の数珠を持つ風習があります。
反対に、天台宗や臨済宗、曹洞宗で正式の数珠を持つのは得度をしている場合や、寺院関係者に限るなどのケースもあるようです。
正式、略式どちらを持ってもかまわない宗派の場合は、基本的に略式の数珠で問題ありませんが、熱心に信仰しているという場合は正式の数珠を持つ人もいます。
宗派 | 男性 | 女性 | 正式の特徴 |
---|---|---|---|
天台宗 | ・略式の数珠 ※正式は一般的に得度した人が持つ |
略式もしくは真言宗の正式(振分) ※正式は一般的に得度した人が持つ |
・正式は平玉でつくられていることが多い(数珠玉を繰りやすく、鳴らしやすくするため) ・僧侶の妻は丸玉の正式を持つことがある |
真言宗 | 正式・略式どちらでもよい | 正式・略式どちらでもよい | ・別名「振分念珠」 ・房は4つ ・女性は日蓮宗以外の宗派で準フォーマルとして使用可能 |
臨済宗 | 正式・略式どちらでもよい ※正式を持つのは寺院関係者が多い |
正式・略式もしくは真言宗の正式(振分) ※正式を持つのは寺院関係者が多い |
・別名「看経(かんきん)念珠」 ・他宗派の正式と異なり、房には数珠玉がなく、紐房のみ(片手念珠を大きくしたような形) ・臨済宗と曹洞宗との違いは、金属の輪の有無(曹洞宗の正式には金属の輪がつくが、臨済宗にはつかない) |
曹洞宗 | 正式・略式どちらでもよい ※正式を持つのは寺院関係者が多い |
正式・略式もしくは真言宗の正式(振分) ※正式を持つのは寺院関係者が多い |
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浄土宗 | 略式 ※地域によっては正式を持つ |
正式・略式もしくは真言宗の正式(振分) ※地域によっては正式を持つ |
・別名「日課念珠」 ・正式でも108玉でつくられておらず、独特の輪違いの形 |
浄土真宗 | 略式 | 正式・略式もしくは真言宗の正式(振分) ※略式を持つ人が多いが、地域によっては正式を持つ |
・房が4つあり、真言宗の正式に似ている ・房に「蓮如結び」と呼ばれる結び目がある |
日蓮宗 | 正式 | 正式 | ・真言宗の正式に似ているが房が5つ ・小さい房は「数取り」と呼ばれる ・広げると人の形のように見えることから「人体を模している」という説もある |
数珠を使うときに注意したいこと
葬儀前は数珠をしまっておく
数珠はお守りとしての役割もあるため、葬儀前はポケットやバッグにしまっておくのがマナーです。数珠をしまうのは、紛失を防ぐためでもあります。
ただし葬儀が始まったら数珠を出しましょう。焼香のときに慌てて出すのもマナー的に良くないからです。葬儀が始まってからも、むやみに数珠を動かしたり、暇つぶしに数珠で遊んだりするのは避けましょう。
数珠の持ち運びには専用の座具を使おう
紐房の数珠はまだしも、数珠の房はデリケートです。カバンやバッグにそのまましまうと、房が傷む可能性があります。できれば葬儀に参列するときは、座具(ざぐ)と呼ばれる数珠専用の袋に入れて持ち運ぶのがベターです。
畳やイスの上に置く際も、じかに置くのではなく座具を座布団がわりにして置くようにしましょう。
数珠の糸がゆるんできたら修理を
数珠の糸は絹糸や丈夫なナイロン糸などが使われていることが多いですが、永久に持つものではありません。摩耗によりダメージが蓄積しますし、にぎり癖があると切れやすいです。
できれば葬儀前に限らず、定期的に糸がゆるんでいないか、切れそうになっていないかを確認しておくほうが安心です。葬儀中に切れると玉が飛び散り、紛失することもあるからです。
数珠の糸が切れること自体は、「悪いことを持って行ってもらった(厄払いができた)」という考え方があり、縁起が悪いものではありません。数珠は専門店で修理が可能です。思い入れや愛着があるものは修理し、代々受け継ぐこともできます。
神式やキリスト教式葬儀などの場合は数珠を持参しない
あらかじめ相手方の宗教が神式やキリスト教式、無宗教などと分かっている場合は、数珠を持参しなくてかまいません。
念のため持っていくというのは問題ありませんが、葬儀の場で出すことは避けましょう。葬儀をどういった宗教、形式で行うかは、故人の遺志や遺族の意向が大きく影響しているからです。仏式以外の葬儀なのに数珠を使用すると、周囲から失礼だと思われるかもしれません。
人の数珠は借りない
数珠はお守りなので、本来一人につき一連を持つものです。できれば普段から机の中やカバンに用意しておくと安心ですが、最悪の場合、葬儀に数珠を忘れても問題はありません。
「ちょっと使うだけだから」と家族で共有することや、忘れたからと人に借りるのはできる限り避けましょう。
ブレスレットタイプの数珠は、数珠がわりにならない
数珠の貸し借りのほか、ブレスレットタイプの数珠を数珠がわりにするのも避けましょう。
腕輪数珠とも呼ばれるブレスレットタイプの数珠は、お守りとしての意味合いは通常の数珠と同じです。ですが、葬儀での数珠がわりにはなりません。
最近は正式の数珠に似た、二重にして身に着けるものもありますが、あくまでアクセサリーの一部と考えたほうが無難です。
ブレスレットタイプの数珠しか持っていない場合は、略式や振分など一般的な数珠も用意しておきましょう。
数珠は自分の宗派に合わせた種類を選ぼう
数珠はお守り、一人一連ずつ持つのが基本
本来、数珠は数を数えるためのものでしたが、時代とともに礼拝用の道具としての役割や、お守りとしての意味も持つようになりました。
数珠の種類は正式・略式があって、宗派により形が異なる場合もあれば各宗共通の形もあります。基本的には、宗派の決まりや地域の風習に合わせて選ぶといいでしょう。ただし女性の場合は結婚すると宗派が変わる可能性があるので、各宗共通の数珠を持つのもひとつです。
数珠にはお釈迦様が宿っていて、私たちを守ってくださっているといわれています。誰かと共有したり借りたりせず、一人一連を準備しておきましょう。