直葬とは?葬儀の流れ、費用相場と直葬を選ぶメリット・デメリット
直葬は火葬式とも呼ばれ、宗教儀礼や社会的儀式を極力省略するシンプルなお葬式です。
葬儀の形が多様化している近年、直葬を選ぶ人も増えています。
とはいえ、一般的な葬儀に比べると、まだ実際に直葬へ参列した経験がある人はまだまだ少数のはずです。
今回はこの記事で、直葬がどのような流れで行う葬儀か、ほかの葬儀形式との違いや特徴、費用相場とメリット・デメリット、葬儀前に知っておきたい注意点などをご紹介します。
直葬とは?家族葬との違い
お通夜・告別式を行わないシンプルな葬儀
直葬は通夜や告別式を行わず、納棺後そのまま火葬へと進む葬儀形式です。
火葬のみの葬儀であることから、火葬式と呼ばれることもあります。
一般的な葬儀や家族葬との大きな違いは、通夜や告別式を行うか行わないかです。
家族葬を含め、一般的な葬儀は1日目に通夜、2日目に葬儀・告別式を行ったのち火葬へと進むのが基本だからです。
直葬は遺族の希望があれば火葬炉の前で読経をあげることがあります。ですが、祭壇を設けず、宗教儀礼も省略し、簡単な焼香程度ですませることが多いです。葬儀後の会食の席も省略することもあります。
他の葬儀形式のように、自宅や葬儀場などを利用して参列者を招き、お別れの場を設けることもありません。
参列者数は10名までが基本
直葬は参列者を家族などごく親しい身内のみに限定し、10名程度までで行うのが基本です。
家族葬も参列者を限定する点は共通ですが、参列者数については30名程度が一般的です。
同じ小規模葬とはいえ、直葬は家族葬よりさらに小さく、ごく限られた人だけで行う葬儀といえるでしょう。
日本国内での直葬の割合・普及状況
直葬が占める割合は5~6%程度
日本国内で直葬が占める割合は、5~6%ほどのようです。
直葬の場合、身寄りがいない人が直葬を選んだケースも考えられるため、アンケートに反映されていない数字があるかもしれません。ですが、いずれにしても、ほかの葬儀形式に比べると割合的にはまだ少ないといえそうです。
一方で、同じ調査で、直葬の直近5事業年度の年間取扱件数や売上高が、いずれも20%以上増加傾向にあるという結果も出ています。
以前に比べると、直葬が一般に認知されてきていることもうかがえます。
直葬は都市部ほど多い傾向
直葬は東京や大阪など都市部において、特に多く行われる傾向があるようです。
葬儀の情報サービス会社の調査によると、関東では22.3%と5件に1件が直葬というデータも出ています。地域別にみると、関東に次いで近畿地方で多い傾向があるようです。
直葬の費用相場
トータル20~30万円が一般的
直葬の費用相場は20~30万円といわれています。
一般的な葬儀費用の相場が約195万円といわれているので、直葬の場合は費用を大幅に抑えることができるでしょう。(「第11回 葬儀についてのアンケート調査報告書」(一般財団法人日本消費者協会))
直葬の費用が少なくてすむ理由には、飲食代や物品代を抑えられるためと考えられます。
通夜ぶるまいの準備は不要ですし、ほぼ家族のみで見送るため、話し合って葬儀後の精進落としの席も省略するか、費用を抑えることができるためと考えられます。
必要な物品や経費も、一般的な葬儀に比べると最低限に抑えられるでしょう。
直葬で必要となる物品やサービス
直葬では主に次のような物品やサービスの利用を必要とすることが多いです。
項目 | 内容 | 費用相場 |
---|---|---|
車両費(寝台車・霊柩車) | ご遺体を搬送する費用 (病院から安置所、安置所から火葬場など) |
20,000~30,000円程度 ※一定距離超過分から追加費用が発生し、距離数に応じて費用が加算されるケースもある |
火葬料金 | 火葬のための費用 |
|
休憩室・控室の利用料 | 利用する火葬場によっては必要 |
|
ご遺体安置料 | 火葬場を利用する場合必要 | 5,000円~10,000円 |
葬儀社スタッフ人件費 | 事前相談から葬儀や葬儀後のサポート | 直葬プランに含まれることが多い |
手続き代行 | 死亡届や火葬申請手続き、火葬場予約など | 直葬プランに含まれることが多い |
棺 | ほとんどの火葬場は棺に納めた状態でないと火葬を受け付けないため必要 | 10,000~60,000円程度 ※直葬プランに含まれることもあるが、身長や体格によっては追加費用が必要 |
ドライアイス | ご遺体の保全処置に必要 | 1日10,000円程度 ※一定日数分は直葬プランに含まれる。超過分のみ追加オプションとなる場合も。 |
骨壺 | 遺骨を収骨する容器 | 4,000円~20,000円 ※公営・民営の火葬場によって変動 |
その他物品 | 枕飾り一式、別れ花、遺影など | 直葬プランに含まれることもある |
直葬費用に含まれる項目
葬儀社によって、直葬を行う際の費用に含まれるサービスは異なります。
葬儀ナビでは下記の表のサービス、物品が用意されています。
直葬費用に含まれる人的サービス・物品
- 費用やプラン作成を含む事前相談
- 24時間駆けつけサポート
- 納棺儀式
- 火葬申請・死亡届・除籍等の手続き
- 葬儀中の専任スタッフサポート
- お墓探しや香典返し等、葬儀後サポート
- 棺
- 旅支度
- ドライアイス
- 棺上花束など
葬儀費用は必ず見積もりを確認
葬儀社を選ぶ際は必ず葬儀費用の見積もりを取り、何が含まれて含まれないか確認しましょう。
セットプランの場合、物品やサービスによっては別途費用がかかる場合があるからです。
特に、格安で直葬ができると宣伝している葬儀社の中には、提示された金額に必要な物品やサービスが含まれておらず、追加料金を請求されるなど悪質なケースもあるので注意が必要です。
直葬費用に含まれない項目
直葬は必要最低限で行うシンプルな葬儀なので、祭壇や返礼品、飲食代などの費用は希望に応じてオプションで追加することが多いです。
ご遺体の搬送に必要な寝台車・霊柩車や、火葬場や安置室など各施設の利用料は別途費用を支払うと考えておくほうがいいでしょう。
葬儀ナビでも、下記のように要望に応じて追加できる費用と別途支払いが必要な費用が提示されています。
直葬プランにオプション追加できる項目
- 寝台車・霊柩車
- 追加のドライアイス代
- 返礼品
- 料理代
- 生花祭壇
- 供花、供物
- 納棺花、献花・玉串しなど
利用施設への支払い
- 火葬料金
- ご遺体安置料
- 骨壺代
- 休憩室
- 控室利用料
その他
- 宗教者への謝礼金
- 遺族の移動用車両代
直葬の費用支払いが不安な場合は?
直葬は葬儀費用が一般的な葬儀に比べ抑えることができますが、それでも支払いを不安に感じる人もいるでしょう。
葬儀の金銭的な負担を軽減するため、自治体や健康保険では葬儀費用として一定金額を支給する制度が用意されています。条件を満たし、期限内に申請すれば支給されるので活用しましょう。
生活保護受給者は葬祭扶助制度が利用可能
生活保護受給者、もしくは生活保護受給者の人が亡くなった場合の葬儀では、葬祭扶助制度という支援制度を利用できることがあります。
葬祭扶助制度は直葬が行えるだけの最低限の費用を自治体が支給する制度です。
支給を受けるには、申請資格を満たしていることと必ず葬儀前に申請することが条件です。
葬儀を行う前に、葬儀社にも葬祭扶助制度を利用して葬儀を行いたいと伝えた上で相談しながら手続きを進めていきましょう。
受給資格 | 生活保護法の第18条のいずれかを満たす場合
|
---|---|
申請期限 | 葬儀前の申請が必要 |
申請先 | その管轄の役所にある福祉課や保護課 |
注意点 | 申請して支給される金額は自治体によって異なる 支給金額には制限があり、一般的に直葬以外は行えない 申請者と故人の住民票の管轄が異なる場合は、 原則申請者の住民票がある自治体で申請。ただし、自治体によって支給額が変わる可能性があるので、故人の住民票がある自治体にも確認をするほうがベター。 |
葬祭給付金制度の利用
通常、葬儀を行った際は、葬祭給付金制度により葬祭費や埋葬費などの支給が受けられます。
葬祭費とは国民健康保険の加入者などが自治体に申請することで支給されるものです。金額は自治体によって異なり、1~7万円ほどです。
埋葬費は健康保険加入者などが社会保険事務所か健康保険組合に申請することで支給されます。金額は平均5万円程度です。
申請期限は一般的に2年以内が多いですが、事前に確認しておくほうがベターです。
直葬は葬祭費が支給されない場合も
直葬を行った場合は、葬祭費を申請しても支給条件に該当しないと判断される可能性があるので注意が必要です。
例えば葬儀社の領収書に「火葬プラン」と書かれていると、葬儀を行っていないと判断され、支給されないケースがあったようです。
ただし、自治体によっては直葬でも支給される場合があるようです。トラブルにならないよう、事前に自治体や葬儀社に確認、相談しておくことがポイントになりそうです。
埋葬費については火葬のみでも基本的に受給ができるようです。ですが埋葬費が支給されるのは、75歳以下の社会保険加入者及び扶養者が対象です。75歳以上は自動的に後期高齢者医療の被保険者となり、葬祭費での申請となるので注意しましょう。
直葬の流れ
ご臨終
故人が病院でお亡くなりになった場合は、医師に死亡診断書を発行してもらいます。
死亡診断書を受け取ったら、死亡届を記入し、自治体へ提出します。
死亡届は死亡を知った日から7日以内に提出することが義務づけられています。
死亡届を出す際は、一緒に火葬許可申請書も提出しましょう。
自宅で亡くなった場合は警察へ連絡し、検死の上死体検案書を作成してもらいます。
葬儀社へ連絡
死亡が確認されたら葬儀社に連絡をしましょう。
直葬を最初から最後まで遺族だけで行うのは難しく、ご遺体の搬送も必要になるため、葬儀社に依頼するのが一般的だからです。
病院で亡くなった場合は、病院で紹介してもらうこともできます。
直葬を依頼する葬儀社が事前に決まっている場合は紹介を断ってもいいですし、搬送だけ頼んでもOKです。
ご遺体搬送~安置
日本では法律により、亡くなってから24時間以内の火葬が禁止されています。
ご臨終の確認後、葬儀社に連絡して一旦ご遺体を安置場所まで寝台車・霊柩車で搬送します。
可能であれば自宅に搬送しますが、難しい場合は葬儀社の霊安室や安置施設へ搬送してもらえるので相談してみてください。
搬送後、ドライアイスなどでご遺体の保全処置を行い、宗旨・宗派に応じた枕飾りを置きます。
その後、葬儀社のスタッフと直葬の手配について打ち合わせを行います。
打ち合わせの際費用の見積もりが出ることが多いので、内容を確認しましょう。
納棺・出棺
ご遺体の安置後、火葬場の空き状況次第では早ければ翌日に納棺、準備ができたら出棺という流れになります。
納棺の際は、故人の死に装束を整え、ご遺体を棺に納めます。
棺にはお花や故人の好きだったものなどを一緒に納めることもできます。
ただし、火葬場によって火葬炉の故障につながりそうなものや不燃物など、副葬品について決まりがあります。詳しくは担当のスタッフに確認しましょう。
納棺から出棺までは約1時間程度で終わることが多いです。
火葬
火葬場の担当者に火葬許可証を提出し、火葬炉の前でお別れをします。
お別れに際してお焼香を行うことが多いですが、場合によっては火葬前に数分程度の簡単なお別れしかできないケースもあるようです。
棺が火葬炉に納められたあとは、休憩室や控室で火葬が終わるまで待機します。
火葬が終わるまでは一般的に1~2時間程度ほどかかります。
火葬前にお経をあげることも可能
直葬は基本的に火葬のみの葬儀となりますが、希望すれば僧侶や宗教者を招き、読経などをあげてもらえます。
火葬の予約時間が優先なので短時間になることが多いですが、全く何も宗教儀式をしないのは抵抗がある場合は検討してもいいかもしれません。戒名についても相談できる場合があります。
ただし、宗教者を招く場合は別途お布施や謝礼金、お車代の準備が必要です。
その他、菩提寺がないことが前提となることもあるようです。まずは葬儀社に相談しましょう。
骨上げ
火葬が終わったら骨上げを行います。
骨上げとは喪主から血縁の深い順に2人1組で箸を使って遺骨を拾って骨壺に納め、次の人へと箸を渡していく儀式です。遺骨は足側から拾い、最後に喉仏を納めるのが一般的です。
骨上げの作法は地域差があるようなので、葬儀社や火葬場のスタッフの指示に従って進めましょう。
分骨を摺る場合は事前に伝えておくとスムーズです。
骨上げを終えると、葬儀も終了です。
骨壷と納骨に必要な埋葬許可書を受け取り、火葬場を出ます。
会食はしないことが多い
一般的な葬儀では、骨上げを終えたあと環骨法要や初七日法要を行い、精進落としの席へを設けます。
ですが、直葬の場合、参列者がほぼ身内だけなので、葬儀後の会食も省略することが多いです。
食事の場を設ける場合も、自宅や外食などで簡単にすませるケースがほとんどです。
直葬は自分で手配できる?
ご家族が全て自力で手配するのは難しい
直葬は火葬のみですませる葬儀なので、火葬場さえ確保できれば家族だけで葬儀を終えられるのではないかと思う人もいるでしょう。
結論からいうと、すべて自力で手配するのは難しいのが実情です。
まず、直葬でも火葬場へすぐ運び入れることはできません。
火葬を行うまでは最低24時間以上ご遺体を安置しなければならないからです。体の状態を保つには、ドライアイスなどを使用してご遺体の保全処置も必要です。
安置場所や火葬場への搬送は、自家用車で行っても法律違反にはなりません。棺自体もインターネットで購入しようと思えば可能でしょう。
ですが、ご遺体をきれいな状態に保つには丁寧な搬送が求められます。実際、葬儀社のスタッフでも新人のうちは搬送を任されないことが多いようです。
棺に納める作業も、一般の人が行うには現実的には難しいでしょう。
直葬も葬儀社に依頼するのがスムーズ
故人を直葬でお見送りする場合も、葬儀社に依頼するのがベストです。
ご遺体の搬送、保全処置なども安心して任せられますし、火葬場の予約や手続きも代行してもらえることが多いからです。
葬儀社に依頼すれば、スムーズな手配が期待できるでしょう。
信頼できる葬儀社選びを
近年は葬儀社も直葬プランを用意しているところが増えています。
ただ、大切な故人の最期を任せることになるので、葬儀社選びは重要です。
プランの費用だけを見て比較するのではなく、親身になって相談に乗ってくれるか、説明は分かりやすいかなどスタッフの対応もチェックしましょう。
時間的余裕があれば、複数の葬儀社に見積もりを取り、料金やサービスの比較をすることをおすすめします。
直葬のメリットは?
費用が安く済み、経済的な負担が少ない
直葬はさまざまな葬儀形式の中でも、費用が安く経済的負担を抑えられるメリットがあります。
僧侶や宗教者を招かなければ、謝礼金の準備も不要になるでしょう。
実際に直葬を選んだ人も、経済的負担が少ないことを理由にしているケースが多いようです。
遺族の精神的・身体的負担の軽減
参列者への対応を少なくできる
直葬は遺族の精神的・身体的な負担の軽減にもつながります。
参列者を家族やごく身近な人の少人数に限定することにより、大勢の参列者に対応せずにすむからです。
ほかの葬儀形式のように、受付や弔辞の依頼など葬儀の準備をする必要もありません。
火葬までの間とはいえ、故人をゆっくり見送ることができるでしょう。
香典を辞退すれば香典返しの準備も不要ですし、葬儀後のあいさつ回りなども最小限の対応で済むでしょう。
最短の日数で葬儀を終えられる
直葬が遺族の負担軽減につながるのは、最短の日数で葬儀が終わることも影響していると考えられます。
一般的な葬儀は通夜や告別式を行うため、2~3日は葬儀の準備や対応に追われます。
一方、直葬の場合早ければ翌日に出棺、火葬となります。
大幅な時間短縮が見込めることから、仕事が忙しく、どうしても葬儀に時間をかけられない人が直葬を選ぶケースもあるようです。
直葬のデメリット
事前に親族への説明が必要
直葬を行う場合は、事前に親族へ事情を説明しておく必要があります。なぜ直葬を選んだかの理由は、できる限り丁寧に説明しましょう。
事後報告では後々の関係がこじれやすくなったり、余計なトラブルを生み出すこともあるからです。
一般的な葬儀と異なり、事情を説明しなければならないことは直葬のデメリットといえます。
もしかすると、きちんと説明しても、親族の中で一般的な葬儀と異なる直葬を行うことに抵抗感を示す人がいるかもしれません。
直葬の件数は増加傾向ですが、まだまだ多くの人が葬儀というと通夜や告別式を行うイメージを持っているのが現状だからです。
直葬も立派なお見送りの形のひとつです。ですが、理解してくれる人もいれば、全く理解を得られない場合もあることを頭に入れておくことが大切です。
故人と関わりがある人にも配慮を
直葬を行う際は、故人と付き合いのあった人たちにも配慮が必要です。
ほとんど家族だけで見送る葬儀なので、親族には理解してもらえても、故人の友人・知人などから参列できないことを悲しみ、不満が出るかもしれないからです。
場合によっては、葬儀後にお別れ会などの場を設ける必要が出てくるでしょう。
葬儀後の弔問に追われることも
故人が付き合いの広い人だと、葬儀後に弔問に訪れる人が後を絶たないケースも考えられます。
身体的・精神的な負担を軽くするために直葬を選んだはずなのに、かえって対応に追われる可能性もあるでしょう。
故人が社会的地位や関係者が多い場合は、葬儀後のことも考えて葬儀形式を決めるほうがベターです。
菩提寺がある場合は直葬について要確認
連絡なしで納骨・戒名トラブルの原因に
菩提寺がある人は、事前にお寺にも連絡して、理解を得ておく必要があります。
一般的に、菩提寺がある場合はお寺の考えに従って葬儀を行うことが多いからです。
直葬は宗教儀礼を省く葬儀形式なので、連絡せず勝手に直葬を行うと、代々のお墓への納骨を拒否されたり、戒名をつけてもらえないなどの問題が起こりやすくなります。
きちんと説明し、理解してもらえればトラブルを防いだり、お寺側から提案を受けることもできるでしょう。
例えば、お寺によっては葬儀を直葬で済ませても、戒名や法要を依頼すれば納骨できる場合もあるようです。あるいは、菩提寺への納骨は無理でも、他のお寺を紹介してもらえるケースもあります。
直葬が普及する背景
人間関係の変化
葬儀は本来、故人を弔うとともに社会的にも故人が亡くなったことを告知し、お別れをしてもらう意味合いも含んでいます。
ですが、近年は社会の変化に伴い、人間関係の在り方が以前より細かく、複雑になってきています。
例えば、近所づきあいをはじめ、実生活の中で必要以上に周囲と関係を深めない人や、そもそも関わりを持たない人が増え、家族同士でも進学や就職を機に離れて暮らす人が多いです。
周囲との関わりが希薄になっているからこそ、いざ葬儀を行うことになっても、故人の人間関係を把握しきれず、対処できないことから直葬を選ぶ人もいるのではないでしょうか。
日本全体が超高齢化社会へと進む現在、故人も高齢で亡くなることが増えていることも、直葬が選ばれる背景にあると考えられます。
元々会社や地域、友人・知人などとつながりが深かった人も、亡くなった頃には高齢で知り合いがほとんどいない状況になるケースもあるからです。
場合によっては故人が認知症となり、亡くなる頃には知り合いがどの程度いるか遺族には把握できないこともあり得ます。
葬儀を行うにあたり、遺族しか参列者できる人が思い当たらないことから、直葬を選ぶ場合もあるでしょう。
宗教観の変化
直葬が増加傾向にある一因には、宗教観の変化もあげられます。
以前に比べ、家と菩提寺との関係が希薄になっているだけでなく、そもそも特定の宗教を信仰しない人も増えていると考えられるからです。
全くの無宗教とはいかずとも、普段はあまり意識しない人は多く、家に仏壇を置いて仏教を熱心に信仰する人は少なくなっているように感じられます。
人によっては、お寺とは葬儀のときだけの付き合いだったり、お布施が高いなどのイメージを持っているかもしれません。
冠婚葬祭のシンプル化
人間関係の在り方や宗教観の変化から、従来の葬儀の形に疑問を持ち、形式にこだわらない人も増えたことも、直葬増加の背景にあると考えられます。
以前であれば、葬儀に社会的な意味もあることから世間体を保つため、ある程度盛大な葬儀を行うのが一般的だったかもしれません。
ですが、参列者が家族しかいない場合や、特定の菩提寺を持たないケースが増えたことにより、故人の遺志や家族の気持ちを最優先にする人も多くなっています。
故人自身も、「盛大な葬儀によって高額な費用をかけることで家族に負担をかけたくない」、「家族だけでゆっくり見送ってほしい」といった遺志を残す場合があるようです。
残された家族も、経済的負担が少ないことも含め、一般的な葬儀に比べシンプルで、ゆっくりと見送りができるという理由から、直葬を選ぶ場合もあるでしょう。
直葬のようなシンプルな葬儀を好む傾向は、葬儀以外に冠婚葬祭全体で見られる動きといえそうです。
例えば結婚式も、以前よりシンプルに、あまりお金もかけずにすませる人が増加傾向にあるからです。
火葬のみとはいえ、直葬もひとつの見送りの形です。形式にはとらわれず、故人を心から見送りたい人がいる限り、今後も普及は進みそうです。
納骨以外の供養を希望する人も増加
直葬を終えたあと、一般的にはお墓に遺骨を納める「納骨」をします。しかし、最近は散骨を希望する人も増えています。散骨は自然葬とも呼ばれる埋葬方法のひとつです。
その他、永代供養墓、納骨堂などで供養されるケースや、人によっては手元供養を選択することもあります。
散骨の場合は、前もって遺骨を粉砕することが必要です。粉状にせず散骨すると、死体遺棄罪に問われるためです。粉骨は専門家に頼むのがベストです。
散骨場所も、その土地・海域を利用する人の迷惑にならない場所を選ぶ配慮が必要です。
種類 | 特徴 | 費用相場 |
---|---|---|
海洋散骨 | 船で沖合の海域に出て散骨する方法。
|
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樹木葬 | 専用の区画や墓地に植樹された樹木のたもとに遺骨の入った骨壺を納骨する方法。 樹木が墓標の代わりとなる。 最近は樹木の周りにご遺灰をまく場合もある。 |
100,000円~800,000円 |
宇宙葬 | 遺骨の入った骨壺を人工衛星やロケットに搭載して発射する埋葬方法。 一定期間地球の軌道を周回後、再び大気圏に突入して燃え尽きるのが一般的な流れ。 |
|
直葬の服装は?
喪服が無難。葬儀にふさわしい服装を
直葬は火葬のみ葬儀で、参列者も身内がほとんどとはいえ、喪主側・参列者側ともに喪服を着用するのが無難です。
ごく小規模の葬儀なので、通常の葬儀ほど服装に厳密な決まりがあるわけではないようですが、葬儀の場には変わりありません。普段着はNGです。
喪服が準備できない場合も、黒色のスーツやワンピースなど、場にふさわしい服装を心がけたほうがいいでしょう。
直葬の香典は?
遺族側は香典を受け取るか辞退するか決める
香典辞退する場合は連絡を
直葬で香典を受け取るか辞退するかは遺族次第です。
一般的には辞退するケースが多いですが、葬儀の形が直葬だからといって香典をもらってはいけないわけではないからです。
ただし、参列者数が限られる直葬では、受け取る香典額は通常より少なくなることが多いことも頭に入れておきましょう。
いずれにせよ、事前に決めておくことが大切です。
直葬は喪主・遺族側はもちろん、参列者側も初めてで用意するべきか迷う人も多いからです。
先に遺族側の意見を統一しておくことで、対応しやすくなるはずです。
香典を辞退する場合は、故人の訃報を知らせる際に香典辞退の旨も伝えましょう。
辞退する際は全員の香典を受け取らない
香典を辞退していても渡されることがあります。ですが、他の人の香典を辞退しているのに受け取ると、参列者に不公平が生まれます。
後々のトラブルを避けるためにも、辞退する場合は誰からの香典も受け取らないのがベストです。
万が一、香典を辞退する旨を伝え忘れていて渡された場合は、謝罪して香典辞退の旨を伝え、丁重にお断りしましょう。
返礼品の用意
香典を受け取る場合は準備を
香典を辞退しない場合は、返礼品の用意が必要です。
香典を渡されたらありがたく受け取り、返礼品を渡しましょう。
香典返しも一般的な葬儀と同じく、当日か四十九日の忌明け後に、受け取った香典の3分の1から半分程度を目安の品物を渡します。品物も、ほかの葬儀と同様にコーヒーやお茶、タオルなどを用意することが多いです。
住んでいる地域によって慣例が異なるので、葬儀社と相談して決めるといいでしょう。
直葬参列時の香典の相場は?
香典辞退の場合は遺族の意向に従う
直葬に参列する側の立場では、遺族側から香典辞退の意向があれば従うのがマナーです。
無理に渡すと遺族の負担になるため、持参するのは控えましょう。
香典辞退の連絡がなければ持参する
香典を包む場合は一般葬と同程度が目安
直葬は香典辞退のケースが多いため、「不要」と思いやすいです。
ですが、一般の葬儀と同様、辞退の連絡がない限りは、香典を持参するようにしましょう。
どちらか分からない場合は念のため持参し、会場で断られた場合は持ち帰るといいでしょう。
香典の金額については、直葬の場合も一般的な葬儀と同程度が目安ですが、故人との付き合いの程度や地域によって差があります。
祖父母 | 10,000~30,000円程度 |
---|---|
父母 | 30,000円~100,000円程度 |
兄弟姉妹、親戚 | 10,000円~30,000程度 |
友人、知人 | 5,000円~10,000程度 |
直葬の注意点~トラブルを防ぐために
死後24時間以内の火葬はできない
直葬は最短の日数で葬儀を終えられる形式です。
ですが、日本の墓地、埋葬に関する法律では、法定伝染病で亡くなった場合を除き、死後24時間以内の火葬はできない決まりとなっています。
亡くなったからといって、すぐに火葬場で火葬できるわけではありません。
すべてを終えるのは最短でも翌日となります。
火葬場の空き状況に左右される
直葬が終わるまでの日数は、火葬場の空き状況によって左右される可能性があります。
ほとんどの直葬は48時間以内に終えられるようですが、都市部は火葬場が混み合っていることがあるからです。亡くなったタイミングによっては翌日の火葬が難しい場合もあるでしょう。
葬儀の時間も、火葬場の営業時間内で、何時に予約が取れるかによって変わってくるでしょう。
ご遺体の安置場所が必要
自宅が難しい場合は葬儀社に相談
火葬の手続きが決まり、ご臨終から24時間が経過するまでの間、ご遺体を一時的に安置する場所も必要です。
マンション住まいや自宅のスペース的に安置するのが難しい場合は、葬儀社に相談しましょう。
葬儀社の霊安室に安置してもらえることが多いからです。
葬儀社によっては、付き添いできる場合もあります。故人と最後の時間を過ごしたい方は、付き添いができるか確認してみてください。
数は限られますが、火葬場によっては納棺まで火葬場の霊安室にご遺体を安置できることがあります。
ただし、有料になる場合がほとんどで、夜間は受け入れができない場合もあります。
その他、安置場所について決めていない場合も、葬儀社に相談すれば適切な方法を教えてくれるでしょう。
故人と親しかった人には連絡を
直葬を行う場合は、可能な限り故人と付き合いのある人を調べて連絡をしましょう。
特に親しく付き合いをしていた人には連絡を取り、直葬をすることを伝えておくことが大切です。
連絡する際は、丁寧な説明を心がけましょう。
忙しくて当日は参列できなくても、お別れをしたいと思っている人がいるかもしれないからです。
きちんと説明しておくことが後々のトラブルを防ぐことにもつながるはずです。
菩提寺にも一言相談しておく
納骨や戒名のトラブルを防ぐためには、菩提寺への相談も欠かせません。
事前に一言相談したかどうかで、その後スムーズな付き合いができるかが変わってくる可能性があるからです。
宗教的な理由を持ち出すと話がこじれるかもしれないので避けたほうが無難ですが、経済的な事情や、故人の遺志があることなどを伝えれば理解を示してくれるはずです。
菩提寺によっては直葬で一旦火葬したあと、お骨を菩提寺に持参すれば改めて葬儀を行い、お経をあげたり、納骨してもらえる場合もあるようです。
例えば、故人が最後に住民票と菩提寺がある場所から離れた場所で暮らしていたものの、遺骨は菩提寺の管轄するお墓に入れてほしい遺志がある場合は、事情を相談してみましょう。
遺族同士も後悔が残らないように話し合う
直葬は必要最低限のシンプルな葬儀なので、葬儀後に十分なお別れができなかったと感じる人もいるようです。
選択肢のひとつではあるものの、本当に通夜や告別式を行わなくていいか、ほかに参列をお願いする人はいないかをじっくり検討する必要があるでしょう。
直葬であっても、僧侶を招き読経をあげることで少し心が落ち着く場合もあるかもしれません。
家族全員が後悔しないためにも、しっかり話し合い、納得いく形で葬儀を行うことが大切です。
直葬は宗教・社会的儀礼が最低限の葬儀
故人・家族が納得いく形で葬儀を
直葬は通夜や告別式を省略し、身内のみで行うシンプルな葬儀です。
希望すれば僧侶に読経をしてもらうことはできますが、宗教・社会的儀礼を最低限に抑えた葬儀といえるでしょう。
参列者の対応がなく、最短の日数で葬儀を終えられることから、遺族にとっては精神的、身体的負担が少ないのはもちろん、経済的負担も一般的な葬儀に比べ大幅に少なくてすみます。
今後、日本社会の変化とともに、直葬のような世間体や一般的な葬儀のイメージにとらわれず、故人の遺志や家族の気持ちを優先した葬儀を選ぶ人は増えていきそうです。
一方で、必要最低限のシンプルな葬儀だからこそ、トラブルが起こらないよう注意も必要です。
周囲への理解や配慮は怠らないようにしましょう。
何より、遺族同士もじっくり話し合い、後悔がないように納得いく形の葬儀にすることが大切です。