真言宗葬儀の特徴~一般的な葬儀の流れや焼香作法、参列マナー
密教をルーツにする真言宗。葬儀の流れや作法についても、ほかの宗派にはない特色があるようです。今回はこの記事で、真言宗の一般的な葬儀の流れや参列時のマナーなどについてご紹介します。
真言宗の葬儀における特徴
真言宗は空海(弘法大師)によって開かれた仏教宗派です。当時の中国(唐)の密教をルーツに持ち、大日如来をご本尊とし、生きたまま仏になる「即身成仏」を目指して修行を積むのが特徴です。総本山は高野山金剛峰寺となっています。
密教とは、すべての人に教義が開かれているわけではなく、修行によって直接教えを授かった人以外に示してはいけないとされる教えのことです。秘密にされた心理を追い求めることで悟りに到達できると考えられています。
真言宗の葬儀は、故人を大日如来の支配する、「密厳浄土(みつごんじょうど)」に送り届けるための儀式とされています。密厳浄土では、太陽である大日如来を中心として、その周りに仏や私たちのいる層などが存在するといわれています。葬儀における儀式によって、この世で身についてしまった悪習を落として仏様のご加護を得られるように、故人の供養を行います。
灌頂(かんじょう)
真言宗の葬儀において、密教特有の儀式のひとつが、灌頂です。灌頂は、故人の頭に水をそそぎかける儀式です。本来は修行を重ねた層が、上の位に上がる証として行う儀式でしたが、葬儀では故人が仏の位に上がるという意味で行います。
土砂加持(どしゃかじ)
真言宗葬儀では、納棺の際に、「土砂加持」を行った土砂をご遺体にかけるのも特徴的です。土砂加持とは、洗い清めた土砂で火(護摩)を焚き、ご本尊の前で「光明真言」を唱える儀式です。光明真言は「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン」と唱えることで、大日如来をたたえ光明をお願いする意味があるとされています。
儀式を終えた土砂には苦悩を取り除く作用や、ご遺体にかけると体が柔軟になる、お墓にまくと罪が消えるなど「滅罪生善」の効果があるといわれています。滅罪生善には、「罪を滅ぼして善を生み出し、故人の罪を清める」という意味があります。
真言宗葬儀のお通夜
ご遺体を安置し、枕飾りをする
真言宗葬儀のお通夜は、仏間や広間などに、ご遺体を安置します。顔には白布をかけ、手に数珠、胸元には守り刀を置くなどします。
ご遺体の枕元には白い布をかけた小さな机を用意し、お線香やロウソク台、鈴、花立て、枕飯や枕団子などの枕飾りを設置します。お花はシキミか白い花を一輪さすのが一般的です。
「一心に一筋に、仏様の元へ成仏できるように」との願いから、お線香とロウソクは常に一本、火がついた状態にしておきます。
枕経を上げる
僧侶が到着したら、枕経を上げます。「般若理趣経」や「陀羅尼」、「光明真言」や「御宝号(南無大師遍照金剛)」を唱えることが多いです。
通夜法話をいただく
枕経を上げた後は、引き続き僧侶に通夜法話をいただきます。
通夜ぶるまい
お通夜の儀式が終わると、通夜ぶるまいをするのが一般的です。参列者に食事やお酒をふるまいつつ、故人の思い出を語り合います。
一般的な真言宗の葬儀の流れ
大まかな真言宗葬儀の流れは下記の通りです。ただし、葬儀作法は地域や寺院によっても異なります。
- 僧侶入堂
- 塗香(ずこう)、三密観(さんみつかん)、護身法(ごしんぼう)、加持香水(かじこうずい)の法
- 三礼(さんらい)
- 表白(ひょうびゃく)・神分(じんぶん)
- 声明(しょうみょう)
- 剃髪・授戒作法
- 引導の儀式
- 破地獄(はじごく)の作法
- 焼香
- 出棺
僧侶入堂
ほかの葬儀と同じように、遺族・親族や参列者の着席後、僧侶が入堂します。僧侶が入堂すると葬儀が始まります。
入堂後、「洒水(しゃすい)」と呼ばれる、清められたお水を棺にふりかけてご遺体を清め、「加持供物」として、供物のお清めを行うこともあります。
塗香(ずこう)、三密観(さんみつかん)、護身法(ごしんぼう)、加持香水(かじこうずい)の法
僧侶が葬儀を進めるための準備作業として、「塗香(ずこう)」、「三密観(さんみつかん)」、「護身法(ごしんぼう)」、「加持香水(かじこうずい)の法」が行われます。
「塗香」は体にお香を塗ってけがれを取り除くこと、「三密観」は吽の字を身・口・意におき、五鈷金剛杵(ごここんごうしょ)を観ずることをいいます。
また、「護身法」は五種の印を結び、真言を唱えることで心身を整える儀式です。さらに、浄めに用いる香水を神聖なものにするための祈りとして、「加持香水の法」が行われます。
三礼(さんらい)
続いて「三礼」を行います。「三礼」とは、三礼文を唱えて仏・法・僧に帰依することを宣言し、礼拝することです。
表白(ひょうびゃく)・神分(じんぶん)
大日如来をはじめとする諸仏、諸菩薩に感謝をささげ、故人の加護や滅罪を願う儀式として、「表白」、「神分」を行います。
「表白」は仏を讃え、亡くなられた方を思い、これから行う儀式の成就を祈ること、「神分」は仏の名前を唱え、降臨に感謝します。
声明(しょうみょう)
「声明」とは、仏典に節をつけた仏教音楽のことです。仏教を賛美する音楽といえます。
剃髪・授戒作法
剃髪・授戒作法では、仏弟子として帰依することを誓い、僧侶がカミソリを手に、偈文を唱えながら故人の頭を剃る、あるいは剃る真似をします。故人に戒律を授け、戒名が授けられます。
引導の儀式
引導の儀式では、引導を渡し、偈を三遍唱えて、再び表白と神分が行われます。
その後、故人の即身成仏を願い、「不動灌頂」や「弥勒三種の印明」、「五鈷杵(ごこしょ)」等が授けられます。最後に「理趣経(りしゅきょう)」を唱えられることもあります。
破地獄(はじごく)の作法
破地獄(はじごく)の作法は、故人の心の中にある地獄を除く儀式です。破地獄の真言を与え、「金剛杵」という法具を授けます。
さらに、「金剛界胎蔵秘印明」と弘法大師による引導の印明が行われ、ご位牌の開眼と血脈の授与がされます。墓前作法として行われることもあります。
焼香
焼香は「偈文」や、故人の成仏を願う「諷誦文(ふじゅもん)」を唱える中で行うことが多いです。焼香が終わると、僧侶が光明真言や回向を唱え、故人が都率浄土へ往生するよう祈願します。
最後にお大師様からつながる「導師最極秘印」という印を結び3回指を鳴らして儀式を終えます。指を鳴らすのは撥遣(はっけん)、いわゆる魂抜きとして故人を送り出し、諸仏にお帰りいただくための意味合いがあるようです。
出棺
葬儀のすべての儀式が終わると、僧侶は退場します。遺族や参列者は故人にお花をささげ、最後のお別れをして、出棺をします。出棺にあたっての作法は特に決まりがなく、地域や寺院ごとの作法に従うのが一般的です。
真言宗の葬儀における焼香作法
3回押し頂くのが正式
真言宗葬儀では、焼香は3回押し頂くのが正式とされています。抹香は右手の親指、人差し指、中指の3本の指で軽くつまんで額の高さに持ち上げ、押し頂いて香炉にくべます。
ただし、参列者数や状況によって、1回に短縮するようアナウンスされることもあります。状況に応じて対応しましょう。
3回押し頂くのが正式になった理由については、三業(身・口・意)を極める、仏・法・僧の「三宝」に帰依するためという説があります。ほかにも、三毒(貪・瞋・癡)をなくす説や「大日如来様、弘法大師様、ご先祖様」に帰依するためなど、諸説あるようです。
遺族は略式数珠でもよいが正式数珠を用意できるとベター
真言宗葬儀では、遺族の場合その後の供養も考慮して、正式数珠を用意するほうがベターです。真言宗の正式数珠は、「振分数珠(ふりわけじゅず)」ともいわれ、108個の玉から成る表裏に2本ずつの房が付いた、二連の数珠です。さまざまな大きさのものがあるので、自分の手に合ったものを選ぶといいでしょう。
ただし、現代では、現代ではどの宗派でも使用できる略式数珠を持つ人も多くなっています。
葬儀で正式数珠を使用する場合は、両手の中指に数珠をかけて手を合わせ、房は自然と上から垂らしておきます。数珠を手にかけた際は、両手をこすりあわせてジャラジャラと音を立てるのも真言宗の特徴です。玉をこすりあわせて音を鳴らすことにより、「煩悩を払う」という意味があるようです。
数珠を使用しない場面では、二重にして手のひらにかけておきます。合掌するときは房を下にし、両手で挟むようにするのが一般的です。
参列する場合は略式数珠でよい
真言宗の葬儀に参列する場合は、略式の数珠を持参してもかまいません。参列するまで相手の宗派が分からないことも多いですし、そもそも数珠は自分の宗派に合わせたものを持つのが基本だからです。
真言宗葬儀の費用相場
具体的な葬儀費用は菩提寺に確認を
真言宗葬儀の費用相場は、葬儀自体は一般的な費用相場と同等と考えられます。人数や場所、利用する葬儀社によっても異なりますが、一般葬だとトータルで約195万円程度といわれています。
一般葬に比べ、家族葬や直葬などの場合は費用を抑えられる可能性があります。いくつかの葬儀プランを比較、検討しながら故人の遺志、家族の希望を反映できるプランを選ぶといいでしょう。
ただし、お布施の金額については、菩提寺によって異なります。お布施の金額は、付き合いの深さや戒名の位などで変動することも多いです。具体的なお布施の金額について知りたい場合は、直接菩提寺に確認してみてください。
お車代・御膳料は5,000~20,000円程度
僧侶へのお礼には、お布施とは別でお車代が必要です。また、僧侶が会食を辞退された場合は御膳料も用意しましょう。お車代や御膳料の相場は、それぞれ、5,000~20,000円が目安とされています。準備する場合は、それぞれ白封筒に入れて渡すのが一般的です。
真言宗の葬儀の香典マナー
表書きは「御霊前」「御香典」が一般的
真言宗葬儀に参列する場合は、辞退の連絡がない限り香典を準備します。香典の表書きは、「御霊前」や「御香典」とするのが一般的です。
香典の金額や包み方は一般的なマナーに従う
香典の金額については、年齢や相手との関係性を考慮しつつ、一般的な費用相場を目安に考えるといいでしょう。
身内の場合は血縁関係の濃さによって1〜10万円程度、友人や会社関係者の場合は5,000円~1万円程度が相場といわれています。葬儀後の会食に招かれている場合は、相場より多めに包むこともあります。
香典袋の包み方も一般的なマナーに準じます。表書きの下には差出人のフルネームを書き入れ、中袋には漢数字で金額を記載しておきましょう。
連名で渡す場合は、「〇〇一同」とし、中袋にそれぞれの名前や住所、金額などがわかる明細を入れておきます。持参する際は袱紗に包むのがマナーです。
真言宗葬儀における服装マナー
お通夜はダークスーツでもOK
真言宗葬儀の服装についても、一般的なマナーに準じると考えていいでしょう。お通夜では略式喪服か、ダークスーツでOKです。ただし、遺族は本式の喪服を着用する場合もあるため、準備しておくほうがベターです。
葬儀では喪服を着用
葬儀では、本式の喪服を着用します。結婚指輪以外のアクセサリーは、真珠を除いて身に着けないのがマナーです。
忌引きの間、親族は喪服を脱がないのが本来の作法
真言宗の場合、親族は忌引き中喪服を脱がないのが本来の作法とされています。配偶者の場合は10日、両親の場合は7日などの決まりもあるようです。
また、忌明けまで七日ごとに行う法要のたびに、黒一色から普段着の色を少しずつ増やし、四十九日法要では通常の礼装で参加するという作法もあるようです。
服装については、地域や菩提寺によって考え方が異なるかもしれません。分からない部分については菩提寺に相談されることをおすすめします。
真言宗の葬儀は故人を密厳浄土へ送り届けるための儀式
密教の教えに基づいた独特の作法で行われる葬儀が特徴
真言宗は大日如来をご本尊とし、葬儀は故人を密厳浄土へと送り届けるための儀式と位置付けられています。密教をルーツにすることもあり、真言宗の葬儀は「灌頂」や「土砂加持」など、ほかの宗派にない作法もあります。ですが、ほかの宗派の葬儀と同様、故人が浄土へ行けるようにとの思いで行われることに変わりはありません。心を込めて故人を送り出しましょう。